White Out Ⅱ ー出発ー 渡り鳥の季節になると、気持ちがざわざわします。 私の住む都会でも、気配を感じて空を見上げると、小さな群れが西南へ向かって飛び去る様子を見かけることがあります。 そんな時、私は電車に揺られながら、鳥たちについて空想を巡らせます。 夏の間、森で個別に暮らしていた彼らは、どうやって旅立つ時期や、向かうべき方角を知ったのでしょう。 誰かに率いられるわけでもなく、各々がその時に気付き、判断し、みずからの翼一貫で渡り始めるなんて、私には驚異的な能力に思えます。 そう感じるのは、私が普段、自然を感じることなく暮らしているせいでしょうか。 私はこれまで大都市の、隅々まで行き届いた社会システムの中で、価値を与えられて生活してきました。 そこでは、自分の肌で感じたり考えたりしなくても、それほど間違わずに生きてこれたように思います。答えの選択肢は常に用意されていて、自分の将来の可能性ですら、診断テストや占いが導いてくれるかのように思っていました。 しかし、言われるがまま受け身で生きてきた先に、明るい未来はあるのかという不安もあります。 そんなわけで、私は自然に導かれながら生きる渡り鳥たちが伝える冬の足音に気付かされて、 ざわざわしたのかもしれません。 でも私は、自分のような平凡な人間の中にも、本来は、不自然な雑音の中から本当に必要な事だけを掴みとり行動する力が潜んでいるのだと、まだ少しは信じています。 自らの感覚を研ぎ澄まし、自分自身で深く考えて、タイミングを逃さず立ち上がり、向かうべき方向へ進むことが出来るなら、その先には新たな地平が待っているかも知れないのだ! 去りゆく群れを見送りながら、私は私自身や、この星の未来についてまでも、果てしなく妄想するのです。 2016年8月17日〜30日 銀座ニコンサロン